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「くらしの窓」連載【日本民家園を行く】

【日本民家園を行く】第5回・旧三沢家住宅

武家屋敷の門である旧佐地家門(第4回で紹介)の主屋に見立てられて建っている旧三沢家は、大きな屋敷だ。それも道理で、三沢家は中山道の宿場町である伊那部宿で代々組頭を勤め、明治時代には村長も輩出した名家だった。屋敷が大きくて立派なのは当然といえる。間口は13・6メートル、奥行きは12・7メートル、平面積171平方メートル。19世紀中ごろの建築と見られ、神奈川県の重要文化財に指定されている。
三沢家は宿場町にありながら、もともとは農業を主として生計を立てていた。しかし江戸時代後期には「槌屋」の屋号で薬屋を始めて成功し、当時の高遠藩に多額の献金をして家格を上げてもらっている。「その結果がこの門です」と語るのは、同園主査の外山明彦さん。「当時は門を構えるということは、家の格を示す誇らしいことでした」。とはいえ現在では門をくぐった玄関からは立ち入り禁止なので、家の中には土間から入ることになる。本来は土間を抜けて裏側に出ると、離れや米蔵、味噌蔵などが建ち並んでいたという。三沢家の豊かさを物語るさぞ壮観な眺めだったのだろうが、主屋しか移築されなかったのは残念だ。
さて、土間の真ん中には屋根の構造模型が置いてある。旧三沢家の最大の特徴は、この屋根にある。
短冊状の細長い木の板を魚のうろこのように並べ、その上に漬物石大の石をいくつも並べて重しにしただけの板葺き屋根。こうした造りは木材に恵まれた山間部ならではのものだというが、置き石がずらりと並ぶ屋根の姿は、非常に目を引く。釘は1本も使わず、本当にただ置いてあるだけの造りなのだそうだ。うろこ状に並べるため、「板が雨ざらしになるのは一部分だけです。そこでその部分が古くなったり腐ったりしてくると、裏返したり引っくり返したりして葺き替えるんです。だから1枚の板で4回使えるということですね」(外山さん)。
板は栗の木を使い、屋根全体を覆うのに必要な枚数は実に1万8千枚にも及ぶ。栗の木は固くて割る手間がかかる上によい木が少ないため、費用もかさむ。それに、1枚1枚引っくり返していくのも非常に手間がかかる。「けれど、こういう文化を保存していかなければなりませんからね」と外山さん。同園では2005年度まで、5年がかりで屋根の葺き替えを行った。土間には天井がないため、上を見上げてみると板葺きの様子がよくわかる。引っくり返して葺き替え、端が黒ずんでいる板を見つけることも出来るだろう。

(「くらしの窓」2006年10月8日号掲載)

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