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「くらしの窓」連載【日本民家園を行く】

【日本民家園を行く】第24回・旧船越の舞台

旧岩澤家住宅のわきのきつい傾斜の階段をのぼった先にある、旧船越の舞台。その名の通り、村の舞台として使われていた建物で、今でも毎年秋の多摩区民祭の際には歌舞伎や民俗芸能などが上演されている。現在は三重県志摩市の一部になっている船越という漁村から移築されたもので、現存する村舞台建築としては国内でも最大級だ。安政4(1857)年に建てられた物で、幅17・9メートル、奥行き11・8メートル、平面積184・6平方メートル。国指定重要有形民俗文化財。日本民家園の展示建造物としては異彩を放つ存在といえる。
船越では6月の漁閑期などに、地芝居といって住民たちが演じる芝居が打たれていた。やがて明治20年ごろには東京などから一座を呼んで芝居を打ってもらう(これを地芝居に対して買芝居とか請芝居という)ようになり、地芝居は廃れていく。そして戦後しばらくすると芝居そのものが行われなくなり、舞台は物置などに使われるようになった。それが解体されることになり、同園で欲しくはないか、という話になったのだという。「もともと、古江亮仁・初代園長はこうした村舞台を同園に移築したいと考えていたのですが、これほど立派な物が来ることになるのは予想外でした」と同園職員の安田徹也さんが教えてくれた。
それにしても、年に1、2回しか使わない舞台、しかも地芝居の舞台としては、あまりに立派で本格的だ。何しろ回り舞台もあれば花道もあるのだ。また、舞台は船越神社の境内にあったが、実際には完全に娯楽用のものだ。これを地元の住民たちが資金を出しあって作ったのだというから、よほど羽振りが良かったのだろう。鬼瓦に書かれた「若」の文字は、若者組という青年組織が中心になって建てたことを示している。大きな舞台だから、使用している木材も大きくて豪快だ。「もっとも、舞台という性格上、どうしても建物の構造としては脆弱になります。強度を増すためにも大きくて太い材が必要だったのでしょう」(安田さん)。
特別に舞台の上に上げてもらうと、回り舞台の大きさが目につく。これは地下の奈落で人力で回していた。船越の舞台では建物の裏側から奈落に入って見学することが出来るようになっているが、実際には奈落は舞台のすその方から出入りしていた。外から出入りする現在の階段は、移築時に見学者のために作ったものだ。また舞台裏の楽屋には、大正から昭和にかけて興行を行った一座の記念額が飾られている。上を見上げると緞帳や幕を吊るす棒が何本も吊るされていて、改めて本格的な舞台だと感じさせられる。上から物を吊るしたり雪や桜吹雪を降らせたりするための通路もあるが、これは現在では使用されていないそうだ。
今でも興行の日には舞台前の客席がいっぱいになるというが、上り階段がきついため、園内を回りながらこの舞台にたどり着くのは一苦労だ。本来は奥の門の周辺に移築出来ないかと考えていたが、1971年にちょうどその辺りで人工的に土砂崩れを起こす実験に失敗して15人もの死者を出す大事故(ローム斜面崩壊実験事故)が起きたため、現在の場所しか移築場所がなくなってしまったのだという。

(「くらしの窓」2010年6月13日号掲載)

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