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「くらしの窓」連載【日本民家園を行く】

【日本民家園を行く】第19回・旧伊藤家住宅(2)

現在の麻生区金程にあった旧伊藤家住宅。1955年、横浜国立大学の学生だった関口欣也さんが調査に訪れたが、その時、住宅の持ち主である伊藤酉造さんは住宅を壊して建て替えることを考えていた。
その理由の一つに、屋根の問題があった。1923年、伊藤さんが3歳のとき関東大震災が起こって屋根はかしいでしまい、以来そのままになっていた。関口さんが調査に訪れたころ、伊藤家では屋根の修理をしようとしていたのだが、修理費用が高額な上にそのころはもう茅葺き屋根の茅が入手しにくくなっていた。そのため、瓦屋根にした方が安いと業者から持ちかけられていたのだ。「当時は農家の収入はサラリーマンの18分の1といわれ、土地を売る農家が多かったんです。うちも共同所有の土地を売って資金が出来ていたから、それなら屋根だけじゃなくて古い家は壊して建て替えようと思っていたんです」(伊藤さん)。
茅葺き屋根は、戦後の農家には大きな負担になっていたようだ。関口さんの卒業論文をもとにした『多摩丘陵の農家 1955年細山 日本民家園の発端』に掲載された当時のアンケート結果を見ても、調査対象となった92軒の農家のほとんどが「屋根葺きは家計に響く」と回答している。大きな家ほどその負担は大きく、「もう藁屋根は見るのも沢山だ」という農家の声も紹介されている。
関口さんは師であり、建築学の世界では重鎮として知られていた横浜国立大学教授の大岡實博士に伊藤家住宅の重要性を説いた。大岡博士は東京に近い地域は開発が進んで古い民家など残っていないだろうと考えていたが、関口さんが「先生、予想外に古いものが残っていますよ。まず自分の住家の近くにある家を見てください」(『日本民家園物語』)と伊藤家住宅を紹介したのである。
伊藤家は地域で最初にオート三輪を買うなど、先進的で開放的な農家だった。関口さんや大岡博士が調査に訪れた時も、快く迎えてくれたという。伊藤さんは、関口さんらが「朝から晩まで細かく調べていた」ことを記憶している。伊藤さんは農業の仕事があったため父親の雄造さんが対応をしたが、関口さんによると雄造さんは「物知りで、調査に関心を持って、ツボを心得た解説をしてくれた」そうである。ジョウヤ(上屋)、シホウゲヤヅクリ(四方下屋造り)など、雄造さんが教えてくれた言葉がそのまま学術用語になったものもある。
調べて分かったことは、伊藤家住宅が重要文化財級の価値があるものだということだった。大岡博士らは伊藤さんに建て替えを待ってもらい、すぐに国の重文指定を受けられるよう動き始める。だが住みづらい家である。なかなか話が進まないうちに5年が過ぎ、6年が過ぎ、とうとう我慢できなくなった伊藤さんは住宅の隣に新しい家を建て、そちらに移り住んでしまった。
稲田図書館(現多摩図書館)の館長をしていた古江亮仁さんが伊藤家を訪れたのは、1964年2月19日のことだった。

(「くらしの窓」2009年8月2日号掲載)

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